(特集「膜構造建築物の維持保全」)

月刊「建築防災」
No.340 2006/5月号
特集「膜構造建築物の維持保全」
シリーズ「建築保全のための建築物調査の基礎知識71」
 
※執筆者名の後の( )内の数字はその記事のページ数を表す
 
◆防災随想
◇雪による建物の被災調査と解析を通して/秋山友昭((株)東京ソイルリサーチ構造調査設計事業部)(1ページ)

 
◆特集「膜構造建築物の維持保全」
◇建築としての膜構造:概要と特性/石井一夫((社)日本膜構造協会会長・横浜国立大学名誉教授)(6ページ)

 膜構造は世界的に大規模建築から小規模仮設建築まで様々な用途に使われている。膜材料の持つ透光性は内部空間を明るくし、その軽量性と強度と面材料の特性は、二次部材の少ない、雨仕舞のよい屋根となり、またテンション構造としての曲面性は他の材料では表現できない魅力を与える。
 
◇膜構造の点検の種類とその概要/楡木 堯((財)ベターリビング審議役)(4ページ)
 建設界が当面している、資源・エネルギー・環境保全問題への対応、循環型社会の形成という大目標を達成するためには、増大してきた建設ストックを、いかに維持管理を継続しながら有効に活用してゆくか、また、今後建設される建築物はどのように設計されるべきか、が重要なことである。
 
◇定期点検の実際と劣化の判断/畠山孝宏(太陽工業(株)膜構造技術室)(5ページ)
 膜構造建築物に対して実施される定期点検の対象部位、点検項目、点検方法、劣化判断の基準などは、日本膜構造協会が定めた『特定膜構造建築物維持保全計画指針』並びに『特定膜構造建築物定期点検マニュアル』(以下『マニュアル』)に規定されている。点検対象となる部位を大別すると「膜構造部全体」「膜材料等」「ベルト、ロープ類及びはとめ」「シールゴム・カバーゴム」「ケーブル等」「取付金具等」の6点である。以下に、これら各項目に対する点検及び劣化判断、補修などについて、いくつかの実施例を紹介する。
 
◇膜構造建築の事例
○事例1 アミュプラザ鹿児島/加藤祐次((株)小川テック設計部グループリーダー)(3ページ)

 平成16年3月13日、鹿児島の街に待望の九州新幹線が開業し、西鹿児島駅も新しく「鹿児島中央駅」となった。南九州の玄関口として、駅周辺はもとより、今、街全体が大きく変貌を遂げている。
 そのような中、駅に隣接して九州最大の大型駅ビルが建設され、カルチャー、レストラン、シネマ、フィットネスなどで構成された本格的なショッピングセンターとして、地域の生活の中心的な役割を担っている。駅と建物をつなぐ広場には膜構造の大屋根が架けられ、最高部が約18m、広さ約1,600平方メートルの明るく開放的な空間は、パブリックスペースとして利用されている。JR、路面電車、バス等交通の要衝としての機能だけでなく、音楽・ファッションショーや展示会などのイベント会場としての利用、さらには、スタジオ・大型ビジョンの設置による情報発信の空間となっている。
○事例2 河内町総合運動公園屋内プール―ドリームプールかわち―/三上勇夫(協立工業(株) 特別顧問)(3ページ)
「ドリームプールかわち」は河内町総合運動公園内のメイン施設として建設された全天候型屋内プールである。水温30度の25m公認プールの他、気泡浴プール、トレーニングルームなども兼ねそなえ、こどもからお年寄りまであらゆる年齢層の方々に利用されている。また、健康増進・リラクゼーションなど活き活きと健康的に過ごせるように様々なニーズにも応えている。
○事例3 つくばエクスプレス 研究学園駅/喜多村 淳(太陽工業(株) 空間デザインカンパニー)(3ページ)
1.物件概要
名 称:常磐新線つくばエクスプレス研究学園駅
所在地:茨城県つくば市
施工年:2005年
用 途:駅舎   プラットホーム上屋
   :駅前広場 バス・タクシーシェルター
建築主:首都圏新都市鉄道㈱(ホーム)
   :都市・機構茨城支社(シェルター)
設 計:交建設計(ホーム)
   :日本技術開発㈱(シェルター)
施 工:間・淺沼・岡部 常新、葛城St本屋他
    特定建設工事共同企業体(ホーム)
   :鹿島・鉄建特定特定建設工事共同企業体
(シェルター)
2.膜構造部分概要
 膜 材:四フッ化エチレン樹脂コーティングガラス繊維布(SF-)(ホーム)
    :四フッ化エチレン樹脂コーティングガラス繊維布(酸化チタン光触媒含有)
     (FGT800)(シェルター)
 膜面積:1947m2(ホーム)743m2(シェルター)
 設 計:交建設計(ホーム)
    :日本技術開発(シェルター)
 構 造:骨組膜構造
3.物件の紹介
 ホーム上屋は10mピッチにダブルアーチ(1.2m巾)が並ぶ。当初はガラス屋根との複合案などがあったが、最終的には頂部にケーブルを通し、膜のスパンを8.8mまでとばした、シンプルですっきりした形態となり、ホームは非常に明るい空間となっている。
 夜間は内部の光が外へ抜け、膜構造らしい独特な景観となる。
 新駅で全面足場を組めたため、施工条件は良好であった。
 頂部のケーブルは膜を袋加工した中を通しているが、施工、収まりを考え40m(4スパン)を一本物として製作した。
○事例4 ヤマト運輸株式会社茨城主管支店荷捌場/郷田哲雄(小川テント(株) 環境施設部)(2ページ)
 この膜構造建築物は、茨城県土浦市に建つ大手運送会社の荷捌場である。常磐自動車道土浦北インターチェンジに隣接する広大な敷地の既存の主管荷捌場内に建てられた増築の膜構造の荷捌場である。
骨組みは鉄骨造で、屋根及び壁には塩化ビニルコーティングポリエステル基布(防炎2級)と塩化ビニルコーティングガラスクロス基布(不燃材料)の膜材が使用されている骨組み膜構造である。
○事例5 上海サーキットサブスタンド上屋/松本秀成(上海太陽膜結構有限公司)(3ページ)
1.物件概要
物  件  名:上海国際賽車場(Shanghai International Circuit)
所  在  地:上海市嘉定区
主 要 用 途:観客席上屋
設 計 ・ 監 理:Tilke Gmbh(ドイツ)、上海建築設計研究院
構     造:上海建築設計研究院(空間構造設計事務所)
設     備:Tilke Gmbh(ドイツ)、上海建築設計研究所
サーキット設計:Tilke Gmbh(ドイツ)
施     工:上海建工集団第二建築工程公司(Shanghai No.2 Construction)
敷 地 面 積:5.3km2(サーキット全体の敷地)
建 築 面 積:150,000m2
2.膜構造部分の概要
膜 面 積:合計約19,000m2(約730m2/1個)
膜  材:四フッ化エチレン樹脂コーティングガラス繊維膜
客 席 数:2万席(サブスタンド)サーキット全体では約20万席
最高高さ:33.6m(サブスタンド)
構  造:鉄筋コンクリート、膜構造(鋼構造、ケーブル、膜材)
工  期:2003年9月~2004年2月
3.物件の紹介
 2004年9月に中国で初めてF1グランプリを開催するため、『上海国際サーキット』が上海市郊外の嘉定区に完成した。延べ面積5.3km2で上海の「上」の文字を象ったサーキットトラックが印象的である。設計者は世界中で多くのF1サーキットを手がけるTilke氏である。
 サズブタンドは、サーキットの最終コーナー部に位置し、スタンド上屋は水面に浮かぶ蓮の葉をイメージした膜構造である。デザイナーの強い要求により、観客席から屋根を見上げた時にできる限り膜面に鉄骨の影が写らないように、スタンド部分(膜面)の上部には繋ぎ材等の鉄骨を配置せず、膜を支える楕円形状の外周リング鉄骨(長辺31.6メートル、短辺26.7メートル)は1本の柱(直径1000mm)からケーブルで吊る構造とした。構造全体の捩れを拘束する為、ポストと外周リング間を後方の3本の鉄骨でつないでいる。膜体は外周リング鉄骨の下端に張られ、柱に向かって収れんしている。雨水も蓮の葉のように柱に向かって集まり、内樋で排水される。
 サブスタンドは東側と西側に分かれ、各13個(計26個)が上下に重なり合いながら、スタンドの観客席を覆うという極めて斬新かつ美しいデザインである。各膜パネルの下層リング部分(直径3.8m)のガラスは取り外すことが可能で、施工後の膜面のメンテナンス時には、ここを通って膜面上に出ることができるよう計画されている。
 施工方法においても極めて特殊な方法を採用した。施主側からの強い要求により、トラックのあるスタンドの内側は重機の立ち入りが禁止された上、スタンド部分には架設足場を設置しないで施工をするというものであった。外周リング(直径560mmの丸型鋼管を使用)をスタンド裏側で組み立てられ、仕上げの塗装を完了したのち、膜をこの外周リングに定着させ、外周リングと膜と押えケーブルを一体で吊り上げるというものである。この施工方法により、約45日間で26パネル全ての吊り上げが完了した。
4.膜構造部分の維持保全
 上海市では膜構造建築物に関する技術的基準を定めており、その中に維持保全についても規定されている。本物件もこの規定に従い、管理者によって適切な維持保全が実施されている。
 
◇これからの膜構造建築の課題/宇野博之((財)日本膜構造協会専務理事)(4ページ)
 膜構造はこれまで国内外で幾度かの被災事例があるが、話題になるのは大型物件であり、その被災は研究報告として国際学会、国際技術誌等で発表が行われているものもある。今後、膜構造の安全性を世界的にも高めていくには、このような被災事例が公表され、問題点を明らかにする必要があろう。
 これまでの国内外の膜構造の被災例を資料、文献等より調査したところ、次の表のようになっていた。被災の主な原因は強風、大雪であり、地震、火災例の報告はない。また、人身被害の報告はない。
 
◆シリーズ「建築保全のための建築物調査の基礎知識71」
◇建築設備配管の超音波による腐食深さ推定方法/高草木 明(東洋大学)(5ページ)

 近年、既存建築物のリノベーションが増加している。建物の内外装とともに建築設備の全面的な改修が行われることが多く、その計画においては一般に現状の劣化診断が行われる。建築設備の様々な構成要素のなかで配管の更新の要否判断は改修計画の方針に大きな影響を及ぼしとりわけ重要である。
 
◆行政ニュース
◇優良防火対象物認定表示制度の創設―火災予防条例の一部改正―/大前光昭(東京消防庁第四消防方面本部長(前 予防部参事兼予防課長))(5ページ)

 首都東京では、防火対象物の高層・大規模化が著しい一方、使用内容や管理形態の複雑多様化、都市の24時間化、高齢者や外国人訪問者の増加、雇用形態の変化などにより、防火安全上の危険要因が益々増大し、防火対象物個々の持つ危険実態に即した実質的な防火安全対策の推進が必要となってきています。(図1~図4参照)
 特に、平成13年の新宿区歌舞伎町雑居ビル火災以降、都民の防火対象物に対する安全・安心への関心は一層高まり、都民からは、建物の防火安全に関する情報を望む声が強く聞かれます。(図5参照)
 
◆お知らせ
◇住宅の耐震改修技術等の評価の実施について(住宅等防災技術評価制度)/(財)日本建築防災協会事務局(4ページ)

 平成7年の阪神・淡路大震災では地震被害に直接的に関わって約5,500人もの命が奪われましたが、そのうちの約9割が木造住宅の倒壊等による圧死でした。近年、宮城県沖地震、東海・東南海・南海地震等大地震の再来の逼迫性が指摘され、木造住宅の耐震性の向上が喫緊の課題となっています。
 木造住宅の耐震診断、改修方法については、近年さまざまな方法が開発されており、耐震改修実施の際に使われ始めていますが、その性能については十分な検討が行われていないものもあります。住宅の所有者等がこれらの新しい方法を採用しようとしても、その効果について客観的な評価が分からないなどの問題が生じており、このようなことが所有者等が耐震改修に踏み切れないことの原因の一つになっていると考えられます。
 
 
 

*情報交流制度にお申し込みいただいた方には、当協会の月刊誌である「建築防災」をお配りしています。

——————————————————————————————————————-

その他詳細につきましては、下記事務局までお問い合わせ下さい。
一般財団法人 日本建築防災協会 建築防災編集係
東京都港区虎ノ門2-3-20 虎ノ門YHKビル
電話:03-5512-6453 FAX:03-5512-6455
mail:kenbokyo@kenchiku-bosai.or.jp

バックナンバー