(特集「21世紀の建築防災の展望」)

当協会の機関誌「建築防災」(月刊)の紹介
No.276 2001/1月号(特集「21世紀の建築防災の展望」)

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◆防災随想 「性能規定と三つの「コン」/吉田克之((株)竹中工務店東京本店設計部副部長)(1ページ)

◆特集「21世紀の建築防災の展望」
◇21世紀の建築防災の展望」特集にあたって/坂本功(建築防災編集委員長・東京大学大学院工学系研究科教授)(1ページ)

◇21世紀の防災の視点/稲田泰夫(清水建設(株)技術研究所副所長)(2ページ)
 子供の頃、ラジオの臨時ニュースで台風情報が伝えられ、大人たちが日頃閉めたことのない雨戸をたて、父親は屋根に登り瓦を点検する。子供達は大人の心配をよそに何となく気分が高揚し、はしゃぎすぎて親に怒られる。セピア色の台風来襲の記憶からは、なぜかしら恐怖心よりもワクワクするような気分しか伝わってこない。
 「防災」は「災害を防ぐこと」、そして「災害」は「異常な自然現象や人為的原因によって、人間の社会生活や人命に受ける被害」のことである(岩波書店広辞苑による)。

◇大阪府における「安全なすまいとまちづくりの推進」/石川哲久(大阪府建築都市部長)(2ページ)
 大阪府では、「定住魅力と活カある大阪府の実現」を目指し、「ゆとりをもって、安心して暮らせる住まいの確保」「安全で快適なまちの形成」「高度な都市活動や都市生活を展開できる都市空問の形成」の3つの基本的な目標のもとに、種々の施策に鋭意取り組んでおります。
 平成7年1月17日に発生した阪神淡路大震災は、多くの都市基盤を破壊し、多数の尊い人命を奪うと共に、我々に災害の恐ろしさ、災害に傭えたまちづくりの重要性を教訓として示しました。

◇避難安全規定と性能/萩原一郎(建設省建築研究所第五研究部防火研究室長)(2ページ)
 火災が発生した時、建物内にいた人々がどのような方法で避難したか、あるいは避難できなかったか、ということが問題として意識されるようになったのは、それほど古いことではない。19世紀末に劇場火災が続けて発生し、1つの建物火災で数百人を超えるような多くの死傷者をもたらすようになってからである。それ以前は、都市大火が社会の関心事であり、耐火建築物にさえすれば火災に対する安全は確保されると単純に考えられていた。

◇経済成長のための安全から生活基盤の安全へ/長谷見雄二(早稲田大学理工学部建築学科教授)(2ページ)
 事実上、近代建築史そのものといって良い20世紀をふり返ると、日本だけでも度重なる大地震に大火災、豪雨災害と、災害に振り回されてきたことが良くわかる。これらに空襲も加えれば、将来、日本の都市建築史における20世紀とは、大量建設と破壊の100年だったと見られても不思議ではないだろう、このような疾風怒濤の時代でやむを得なかったのかもしれないが、「建築防災」という分野は、くり返し起こる災害を機会に制度や基準、技術などを見直しながら前進するという傾向が強くて、建築や都市の安全とはどうあるべきかという明晰な思想のもとに、災害を管理可能な現象としていく具体的な方法を誘導するという性格に欠ける趣があったことは否めない。世紀が変わったからといって特に何が変わるというものでもなかろうが、これまで防災が現実に流されがちであったことを考えると、世紀の変わり目を機会に100年の計に想いを馳せてみるのは、おおいに意義あることであろう。

◇木質内装の復権/堀長生((株)大林組技術研究所建築材料研究室主任研究員)(2ページ)
 「あー今日の打合せは長引いたな。でもあの設計者の指摘はさすがにまとを得ていた。さあ帰って休もう。」
 タクシーは深夜のホテルヘとすべり込む。エントランスからロビーの壁は、上品なマホガニーの内装である。手荷物を預けて案内された部屋は、ナラ材の重厚なドアの向こうである。チークで作られた少し大きめの椅子に腰を掛けて、ブランデー片手に今日一日を思い返してみる。一度でいいからこんな出張がしてみたい。でも無理である。こんなホテルは超高級であるから、我が社の出張経費で泊まることはとうてい不可能である。
 シティホテルのロビーや、オフィスビルでも役員室に限ればその内装仕上げは木質の場合が多い。しかし我が国の法では、防火・避難安全上の観点から内装仕上げの仕様を材料によって制限するいわゆる「内装制限」があって、都市部の大規模な建築物において木質内装仕上げの実現には大変な苦労がある。火災安全上からは好ましくないとされている木質内装が、特に重要な客が宿泊するホテルや、企業でもトップクラスが執務するフロアに多用されているのはなぜだろうか。高級な質感を出すためだとすれば、大理石や金などを用いた金属仕上げでも質感は十分で火災に対してはより安全ではなかろうか。

◇21世紀は「心による」時代-木の空間に想う-/富松太基((株)日本設計情報・技術センター技術部主管)(1ページ)
 20世紀を「技術革新」の時代とすると、21世紀はそれをべ一スにより豊な暮らしができるものと、つい最近まで思ってきました。パブル全盛期の1990年ころまでは、日本でもそうでしたし、アメリカではまだ続いているのかも知れません。しかし、東西冷戦が終わっても、民族紛争(コソボ)・宗教戦争(パレスチナ)という形で戦火は絶えませんし、経済不安・人口増加・地球温暖化と、豊かになる芽はどこにもありません。防災の分野でも、テロ(ニューヨークWTC)、地震(阪神大震災)など殆ど「予測不可能」の部分で大きな事件・事故が相次ぎ、「安心・安全」に大きな影を落としています。

◇21世紀における建築物の防災に関する展望/小川富由(建設省住宅局建築指導課建築物防災対策室長)(2ページ)
 激動の20世紀から21世紀に移り変わる中で、建築物に関してはどの様な災害が間題となってくるのであろうか、また防災の点ではどの様なことが求められるのか、はなはだ広範に渡る課題を頂いた。まず、世の中がどの様に変化するのかその方向性を順不同に予測してみたい。

◇3S統合の時代/表祐太郎((株)大林組技術研究所所長)(2ページ)
 21世紀を迎え、国を挙げて緊急に取り組むべき事業としてIT(惰報技術)が叫ばれている。建築防災の分野でITといえば、まず3Sの統合であろう。
 ここで言う3Sとは、RS(リモートセンシング)、GPS(汎地球測位システム)、GIS(地理情報システム)である。改めて紹介すると、RSは人工衛星から地表付近を監視する技術、GPSは人工衛星を使った測量技術、GISは収集したデータを地図上に表示する技術である。

◇安全と安心の都市のための建物/可児長英((社)日本免震構造協会専務理事)(1ページ)
 これまで、災害に強い都市づくりを目指し多くの努力がなされたものの思うほど効果は上がらず、地震が発生すると、都市はその脆弱さを示してしまうことが多かった、人と物とで構成される都市は常に何らかの脆弱性を有していることは事実であり、それが特に地震時などに現れることが多い。建築界にある我々は少なくとも関連する分野での脆弱さを低減したいものである。

◇課題と対応/笠原勲(大成建設(株)技術研究所建築環境研究部部長)(2ページ)
 防災の理想は災害を正確に予測し、予測される災害に対して迅速かつ適確に対応することと、社会の変化に柔軟に対応できる制度を作ることと思われる。そのためには説得力ある正確な予測技術も欠かせない。
 災害は社会状況の変化や、人々の周辺環境が変化した結果、災害の生じるポテンシャルが上昇したのにもかかわらず、それに気が付かず、対応が図られないうちに、突然人間を襲うものである。そのため変化により生じるであろう災害をできるだけ正確に予測し、その結果に基づき対応を図るのが理想である。しかしながら法規など災害への対応策の多くは、一般に災害結果を踏まえ整備されるのが現状である。20世紀における日本の建築火災に対する対応は、主に中、高層の建物に関する防災技術および都市火災への対応が、多くの貴重な災害経験を踏まえながら進められてきた。その結果、最近では大規模都市火災や中、高層の大規模な建築火災は少なくなってきている。これは都市防災や建築防災における大きな成果である。しかし、そのような中で、木造住宅、特に都市の木造密集住宅の対応が、取り残された課題として残っていることが、阪神、淡路大震災により判明した。これまでの対策は都市大火への対応は図られてきたが、地震と大火との関連は放置されてきた。つまり予測はできたが迅速に対応することが遅れた課題である。

◇地震防災と自己責任/神田順(東京大学大学院環境学研究系教授)(3ページ)
 私達は地震や地震被害について、随分学んできた。それでも被害を無くすことは、なかなか出来ないでいる。21世紀だからと言って簡単になくせるとは思わない。地震そのものは白然現象であるが、震災は、ほとんどが人間の作った物がもたらすので、その意味では人による災害、すなわち人災である。このことも良く言われている。被害を少なくするための努力を、誰がどのようにやってきたかを考えると、それぞれの役割はあるものの、あんがい自分で解決すべき問題として捉えてきていなかったことに気づかされる。

◇性能的火災安全設計法の更なる発展への期待/田中哮義(京都大学防災研究所巨大災害研究センター教授)(1ページ)
 今を遡る100年前の20世紀元年(1901年)は、和暦では明治34年に当たる。東京では、江戸で猛威を振るった大火は明治維新以後も暫くの間頻発していたが、消防力や上水道の整備に伴って漸く鎮静化の傾向が見えていた時期であった。しかし、地方都市では依然として頻繁に発生する大火が多大な被害を生じていた。一方、東京で日本橋の大火や神田の大火が起きていた明治初頭の時期に当たる1870年代頃、米国ではシカゴ、ボストンなど諸都市で大火が頻発していた。更に1905年には有名なサンフランシスコ地震大火が発生している。また西欧諸国では劇場その他の建築火災によって多くの犠牲者が発生していた。

◇自己責任と法的責任/辻本誠(名古屋大学大学院工学研究科教授)(2ページ)
 このところ、建築基準法の性能規定化に関連して、専門家でもないのに工学と法に関する意見を数誌に投稿している。理由は、われわれ(安全に関わる工学者)があまりに法オンチのために、なんだか方向違いに進んでいそうな気がして仕方が無いためである。21世紀が、20世紀のつけを払う世紀になるのは必然なので、この種の状況を整理しておくことは、この企画としても悪くはないと勝手に判断して、私論をまとめておきたい。

◇建築物の何が危険を生み出すか/村上虚直(防災都市計画研究所名誉所長工学博士)(3ページ)
 筆者が建築物の防災を、より本質的に考えなければならないと気付いたのは、1972年5月13日に大阪の千日デパート火災の現場に何回も足を運んでいた時だった。千日デパート火災は、デパートの営業が午後9時に終り3階の電気の配管工事が始まり、その現場で10時30分頃火災が始まり、結果的に2階から4階が火災で焼け、焼けなかった最上階の7階のプレイタウンというキャバレーに居た180人ぐらいの客、ホステス、バンドマン、レジ係、支配人等のうち、118人が命を落とすという大参事となった。

◇21世紀に向けて/上原茂男((株)竹中工務店技術研究所研究開発部主任研究員)(3ページ)
 20世紀は近代建築が世界各地で花開いた時代であった。歴史的な建築様式にこだわらない自由で合理的な精神をもった鉄とガラスとコンクリートによる高層建築が世界の都市を埋めた。建築に組み込まれた様々な設備の進歩ともあいまって、近代建築は人間の生活の質や生産性の向上に大きく貢献した。建築の高層化や大規模化がすすみ、多数の人が集積するようになってくるにつれて火災に対する安全性の問題がクローズアッブされてきたが、それぞれの時代や建築の特性に応じて近代的な工学技術に基づいた防災技術が開発され、社会の求める火災に対して安全な建築の実現に寄与してきた。

◇災害のもリスクにもとづく意思決定の社会へ/矢代嘉郎(清水建設(株)技術研究所建築研究開発部部長)(2ページ)
 建築物の防災、このテーマに関わる災害は地震、火災に限らないであろうが、人間の生活に付随して発生する災害の典型である火災にたいして、今後の災害防止についての思いをのべたい。
 生活に直接かかわる火災は、社会の、そして技術の発達によってその様相が変化してきた。建築における安全性の水準やハードな防災対策にもとめる役割も同時に変化している。防災問題は自然科学的問題、技術問題であると同時に社会学的問題でもある。21世紀に臨むにあたって防災技術の変革への期待を記したい。

◇建築表現の自由度の獲得と防災技術/小林恭一(静岡県防災局技監)(1ページ)
 建築防災の歴史は、様々な制約から計画の自由度を獲得してきた歴史でもある。
 入手可能な材料、工法、設備などの様々な「制約」は統一的な美しい街並みの形成など「秩序形成」などの面でブラス面も大きいと思うのだが、建築家は遥かな昔から常に新たな空間や新たな表現を求め続け、それを制約するものから自由になろうとして来たのだと思う。
 技術開発は、計画の自由度を獲得するのに特に大きな役割を果たしできた。中でも建築家が新しい技術によって追求してきたのは、重力や高さなどの制約を克服して、高層、大空間、地下空間などの「新たな空間」を創造することであろう。

◇耐震設計の展望/秋山宏(日本大学総合科学研究所教授)(3ページ)
 科学技術は進歩する。しかし、災害は一向に減るどころか増大の一途をたどっている。これは、科学技術の進歩は人間生活圏を拡大させ、その拡大は災害ポテンシャルの増大と同義であるためである。15世紀以来人類はエネルギー革命時代に突入し、大航海時代、産業革命を経て市場経済を確立した。この時代を特徴づけるものは、人類が獲得したエネルギーの飛躍的増大である。人間1人が食物のみにそのエネルギーを依存するとすれば、約100Wのエネルギー消費に相当する。現在、日本人1人のエネルギー消費は平均でこの50倍である。これほどのエネルギーの浪費の下に人間は諸々の精神的、物質的自由を獲得したと云える。一方では、車社会、都市の過密居住は災害ポテンシャルを高めている。防災技術の進歩も目覚しいが、災害ポテンシャルの増大には追随できていない。

◇火災リスク提言のための課題について/佐藤博臣(鹿島建設技術研究所先端技術研究部リスクアセスメントグループ上席研究員)(2ページ)
21世紀の火災安全技術はどのように変化するのであろうか?
 遠い未来のことは分からないが、わが国においてここしばらくの間は、高齢化社会など災害弱者の社会進出の増大、IT化・情報通信技術の飛躍的な発展、環境共生など持続性のある社会への要求などが話題の中心となって周辺技術は進歩するものと考えられる。火災安全技術についても同様であろう。このとき、2000年6月から建築基準法に導入された性能評価法が、技術発展の「核または障害」となるものと想定される。この新しい性能評価法をよりよいものへと進化させることが、火災安全研究に携わる全ての人々にとっての責務と考える。

◇都市型大震災に関する私見/東端泰夫((株)竹中工務店技術研究所生産研究開発部)(2ページ)
 筆者は過去30年に渡り、幾つかの非木造建物に関する地震被害調査に参加してきた。通常の調査は地震発生より3日→7日後に被災地入りしており、地震直後の混乱や被害状況は対象外となる。震災の恐ろしさは、被災された方々にしか判らないとは承知しているが、残存する被害を調査し、少しでも印象を深め、実体験の中で現象を把握出来たことは、耐震建築に携わる者として貴重な財産になっていると確信している。
 これらの経験より、知識として過去の震災記録や調査報告書を読破する以外に、自分の眼で状況確認することが大切であるとの持論に至った。

◇事後防災から事前予防へ/関沢愛(自治省消防庁消防研究所第三研究部長)(2ページ)
 2001年の年明けというタイミングは、単にカレンダー的な意味での世紀の移り変わりだけでなく、戦後の日本の防火体制ひいては社会システムの半世紀の節目でもあり、一つの時代を画する上で意義深いものがある。
 しかし、変化のめまぐるしい昨今の社会状況や技術革新のスピードを考えると、本特集の主題である21世紀の展望はおろか、今後10年あるいは5年先でさえ見通すことは難しい。ここでは、あまり未来学的な話ではなく、とりあえず21世紀の初頭に向けて、防災上心したいことの一つとして事後防災から事前予防への防災思想のシフトという視点から、幾つか筆者の思うところを自由に述べさせて頂くことにする。

◇建築防火・材料の同行/菅原進一(東京大学大学院工学系研究科教授)(2ページ)
 昔は、社会の変化が悠長で長期的展望に立ちものごとを考えることが出来たが、今は短い時間で決断しないと乗り遅れる。何でも刹那的なのでストレスも溜まる。犯罪の低年齢化にも関連がありそうだ。社会システムの疲弊を工学的に解決しようと目論む安全工学は各専門領域を包含する学問分野であり貴重な存在と思えるが、科研費申請要領を見ても社会システムエ学が複合領域の専門分科として認められ、安全工学は細目にさえ認知されていない。しかし、最近の地震・原子力・人間関係などに関わる災害・事件の続発に対し安全・安心に対する関心は急速に高まっている。

◆災害報告
◇9.12集中豪雨の被害概要/伊藤守一(愛知県建築部建築指導課課長補佐)(4ページ)
 愛知県では平成12年9月11日から12日に掛けて、台風14号及び秋雨前線の影響により、集中豪雨に見舞われ、9月11日の降り始めからの総雨量は明治24年の名古屋地方気象台観測史上過去に経験したことのない未曾有のものになりました。
 この雨により県内の河川は、軒並み水防警報が発令され、なかでも新川、天白川、庄内川では危険水位を越える過去最高の水位を記録しました。そのため、河川を氾濫させ流域に甚大な被害をもたらすことになりました。

◆「建築防災」総目次(1999年1月~2000年12月)(7ページ)


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